十日戎(とうかえびす)は、毎年1月に行われる、商売繁盛や家内安全を祈願するお祭りです。特に西日本、中でも大阪の今宮戎神社(いまみやえびすじんじゃ)でのものが全国的に知られ、非常に活気にあふれています。ただ「商売繁盛のお祭り」というだけでなく、そこには具体的な日時、場所、参加方法、費用、そして祭りを彩る様々な要素があります。ここでは、十日戎の「意味」を、その「何を?」「なぜ?」「どこで?」「いつ?」「どうやって?」「いくら?」といった具体的な側面に焦点を当てて、詳しくご紹介します。

十日戎とは、具体的にどのような行事ですか?

十日戎は、福の神として親しまれる「えびす様(恵比寿様)」をお祀りし、一年の商売繁盛、五穀豊穣、家内安全、そして大漁(漁業の神様としての側面から)などを願うお祭りです。特に新年早々に行われることから、新しい一年間の景気付けとして、多くの商売人や経営者、そして一般の人々が訪れます。

祭りの期間は通常、1月9日、10日、11日の3日間です。

  • 1月9日:宵戎(よいえびす)
    本戎の前夜祭にあたります。この日から既に多くの人が訪れ、参拝や縁起物を求める賑わいが始まります。
  • 1月10日:本戎(ほんえびす)
    祭りの中心となる日で、最も多くの参拝者で賑わいます。この日にえびす様のご利益が最大限にあると信じられています。
  • 1月11日:残り福(のこりふく)
    本戎に参拝できなかった人や、さらに福を授かりたいという人が訪れる日です。「残りの福」にもあやかろうという思いが込められています。

この三日間を通じて、神社境内や周辺には露店が立ち並び、独特の活気と熱気に包まれます。

祭られる神様「えびす様」はどんな神様ですか?

十日戎で中心となる神様は、七福神の一柱である「えびす様」です。

えびす様は、満面の笑みを浮かべ、右手に釣り竿、左手に鯛(たい)を抱えた姿でよく描かれます。これは、元々は漁業の神様であったことに由来します。大漁をもたらす神として信仰されていましたが、時代が下るにつれて、そこから転じて商売繁盛や福徳開運の神として広く崇められるようになりました。

特に商売の世界では、「えびす顔」という言葉があるように、ニコニコとした笑顔は愛想が良く、商売繁盛につながると考えられています。そのため、えびす様は「笑う門には福来る」を体現するような、非常に縁起の良い神様として親しまれています。

特に有名な十日戎はどこで開催されますか?

十日戎は全国のえびす神社や、えびす様を合祀している神社で行われますが、最も規模が大きく、全国的に有名で多くの人が集まるのは、大阪市浪速区にある今宮戎神社です。

今宮戎神社での十日戎は、「ミナミのえべっさん」とも呼ばれ、大阪の正月行事として欠かせないものとなっています。期間中は数十万人から百万人以上もの人々が訪れると言われ、境内は文字通り身動きが取れないほどの混雑となります。

その他にも、京都ゑびす神社、西宮神社(兵庫県、えびす様の本宮とされる)、柳原蛭子神社(神戸市)、宝恵比寿神社(京都市伏見区)など、各地で有名な十日戎が開催されますが、規模や賑わいにおいては今宮戎神社が群を抜いています。

お祭りでは具体的にどんなことが行われますか?

十日戎で行われる主なこと、そして最大の見どころの一つは、参拝者が「福笹(ふくざさ)」と呼ばれる笹の枝を受け(または購入し)、それに「縁起物(えんぎもの)」と呼ばれる様々なお飾りをつけてもらうことです。

具体的な流れとしては:

  1. まず神社に参拝し、本殿で商売繁盛などを祈願します。
  2. その後、境内の「福笹授与所」などに行き、笹を受け取ります。笹自体は無料またはごく安価であることが多いです。
  3. 次に、笹につける縁起物を販売している場所へ行きます。ここでは、福娘(後述)や巫女さんなどが待機しています。
  4. 好みの縁起物(小判、鯛、米俵など)を選んで購入します。
  5. 購入した縁起物をその場で福娘さんなどに笹につけてもらいます。この際、威勢の良いかけ声とともに「商売繁盛でササ持って来い!」といった呼びかけが飛び交うのも、十日戎ならではの光景です。
  6. 縁起物で華やかになった福笹を持ち帰り、自宅や会社の神棚、あるいは人の集まる場所などに飾ります。

福笹(ふくざさ)とは?

文字通り、福を招く笹の枝です。笹は生命力が強く、まっすぐに伸び、葉が落ちにくいことから、商売が「根強く栄え」「真っ直ぐに発展し」「客足が離れない」といった願いに通じるとされ、縁起が良い植物とされています。

福娘(ふくむすめ)とは?

十日戎の華とも言える存在です。公募で選ばれた若い女性たちが、期間中、満面の笑顔で参拝者に福笹や縁起物を授与したり、笹にお飾りをつけたりするお手伝いをします。彼女たちから福笹を受け取ることで、さらにご利益があると感じる参拝者も多く、福娘に会うために訪れる人もいるほどです。

宝恵駕籠行列(ほえかごぎょうれつ)

特に今宮戎神社では、10日の本戎に行われる「宝恵駕籠行列」が有名です。芸妓さんやタレント、各界の著名人などが宝恵駕籠に乗って道頓堀などミナミの繁華街を練り歩き、神社へと向かいます。沿道には多くの見物客が集まり、祭り気分を一層盛り上げます。

境内の賑わい

期間中、神社の境内や参道、周辺の道路には、お好み焼きやたこ焼き、焼きそば、甘酒、縁起物などを売るたくさんの露店(屋台)が立ち並びます。食べ物の良い匂い、人々の話し声、威勢の良いかけ声、お囃子などが渾然一体となり、独特の熱気と賑わいが生まれます。このお祭りの雰囲気を楽しみに来る人も多いです。

なぜ1月9日、10日、11日なのですか?

この三日間の日程は、中心となる「本戎」である10日を挟む形で設定されています。

  • 9日の宵戎:10日の本戎は大変な混雑が予想されるため、前日から参拝できるように設けられています。早く福を授かりたい、混雑を避けたいという人が訪れます。文字通り「宵(よい)=前夜」の戎祭りです。
  • 10日の本戎:えびす様の最も力が満ちる日、とされる中心日です。この日に参拝することが、最もご利益があると信じられています。
  • 11日の残り福:本戎に来られなかった人への救済措置、あるいは「残っている福」にもあやかろうという発想から設けられた日です。三日間を通じて、より多くの人に福を授ける機会を提供しています。

この三日間の設定により、分散参拝を促しつつ、祭りの期間を長くして賑わいを創出するという効果もあります。

参加するにはどうすれば良いですか?

十日戎への参加は非常にシンプルです。祭りの期間中に、お目当てのえびす神社を訪れるだけです。事前の申し込みなどは必要ありません。

ただし、特に10日の本戎や、有名な神社(今宮戎神社など)では、尋常ではないほどの人出となります。参拝するまで、あるいは福笹や縁起物を受け取るまでに、長時間並ぶことを覚悟する必要があります。時間に余裕を持って訪れるか、比較的空いているとされる宵戎(9日)や残り福(11日)を狙うのも一つの方法です。

電車などの公共交通機関を利用するのが一般的です。周辺道路は交通規制が行われたり、駐車が困難になったりします。歩きやすい靴で、防寒対策をしっかりとして出かけましょう。

福笹やお飾りの値段はどのくらいですか?

福笹そのものは、神社によって異なりますが、無料または数百円程度で授与されることが多いです。

費用がかかるのは、笹につける「縁起物」です。縁起物の種類や大きさによって値段は大きく異なり、参拝者が自分の願いや予算に合わせて選びます。

  • 最も安価なものでは、小さな小判や米俵などが数百円からあります。
  • 少し大きめのものや、複数種類を組み合わせたものになると、千円~数千円が目安になります。
  • 大きな鯛のお飾りや、金色の大きな福箕(ふくみ、ちり取りのような形をした縁起物)などは、数千円~一万円以上するものもあります。
  • さらに、本殿への祈祷料やお賽銭は、参拝者の気持ちによります。

合計でいくらになるかは、笹につける縁起物をどれだけ豪華にするかによって大きく変わります。最低限の参拝と笹だけなら数百円で済む場合もありますし、豪華な縁起物をたくさんつけると数万円になることもあります。これは、それぞれの商売への願いや、福への投資(?)といった意味合いが込められているため、決まった上限はありません。

どんな「縁起物」があるのですか?

福笹を彩る縁起物には、様々な種類があり、それぞれに縁起の良い意味が込められています。代表的なものをいくつか挙げます。

  • 小判(こばん):言うまでもなく金運・財運の象徴です。「千両箱」など、小判がたくさん積み重なったものもあります。
  • 鯛(たい):えびす様が抱えている魚であり、「めでたい」に通じることから、お祝い事や幸福全般の象徴です。
  • 米俵(こめだわら):豊作や食料の安定を意味し、そこから転じて富や財産の象徴となります。
  • 打ち出の小槌(うちでのこづち):振るたびに欲しいものが出てくるとされる伝説の槌。願いを叶え、富をもたらすとされます。
  • 大福帳(だいふくちょう):商売で儲けた記録をつける帳面のこと。商売繁盛、帳面が福で一杯になることを願います。
  • 宝船(たからぶね):七福神が乗っているとされる船。宝物を満載してやってくる様子から、財運招来を願います。
  • 巾着(きんちゃく):お金や宝物を入れる袋。富を貯め込み、無駄遣いをしないという意味合いも込められます。
  • 福箕(ふくみ):ちり取りのような形。福を掃き込む、福を集めるという意味があります。
  • 熊手(くまで):落ち葉などをかき集める道具。福や運を「かき込む」という意味で縁起物とされます。(熊手は酉の市でも有名ですね)

これらの縁起物を、福娘さんやお手伝いの人たちが、バランスよく、または参拝者の指定する通りに笹につけていきます。自分で選んだ縁起物を目の前で笹に飾ってもらうのも、十日戎の楽しみの一つです。

お祭りの雰囲気はどんな感じですか?

一言でいえば、非常に活気があり、熱気に満ちています。特に本戎の日の有名神社は、驚くほどの人で埋め尽くされ、前に進むのもやっと、という状況になります。

境内や周辺には、

  • 福笹を持った人々の波
  • 威勢の良いかけ声(「商売繁盛でササ持って来い!」など)
  • 福娘さんたちの明るい声と笑顔
  • お囃子の音
  • 露店からの食欲をそそる匂い
  • 人々の熱気

といった要素が一体となり、独特の高揚感を生み出しています。真剣に商売繁盛を願う人々の思いと、祭りの賑やかさが混じり合った、エネルギーに満ちた空間です。静かに祈りたい人にとっては少し圧倒されるかもしれませんが、この「賑やかさ」こそが福を呼び込むのだ、と考える人も多いです。

この賑わいの中で、皆が笑顔で福笹を手に持ち、新しい一年への希望を胸に抱いています。それが十日戎の最も特徴的な雰囲気と言えるでしょう。

このように、十日戎は単に「商売繁盛を願う」というだけでなく、特定の日程に特定の場所で、人々が福笹を手にし、様々な縁起物を飾り付け、独特のかけ声と熱気の中で願いを込める、具体的で体験的なお祭りなのです。特に大阪の今宮戎神社での十日戎は、その規模と賑わいで、日本の正月を彩る重要な行事の一つとなっています。

十日戎意味

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