日本の「技能実習制度」は、しばしば耳にする言葉ですが、その具体的な仕組みや、外国人技能実習生として来日する人々がどのような生活を送るのか、受け入れ側にはどのような責任があるのかなど、多岐にわたる疑問があることでしょう。
この制度について、表面的な説明にとどまらず、皆さんが抱きやすいであろう「それは何?」「なぜ存在するの?」「どこで、いくらで、どうやって?」といった具体的な疑問に焦点を当て、できる限り詳細かつ分かりやすく解説していきます。技能実習制度の「意義」や「歴史」といった一般的な話ではなく、制度の「実態」に即した情報を提供することを目指します。
技能実習制度とは? 多角的な疑問に答える詳細ガイド
【技能実習制度】とは具体的に何ですか?
技能実習制度とは、日本が開発途上国等へ技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)を移転し、その国の経済発展を担う人づくりに協力することを目的とした制度です。日本の産業界で培われた実践的な技能等を、実習生が習得し、帰国後に母国の産業発展に活かすことを建前としています。
これは「雇用契約」に基づくものであり、実習生は日本の労働関係法令(労働基準法、最低賃金法など)の適用を受けます。つまり、単なる研修ではなく、企業等と雇用関係を結び、働きながら技能を学ぶという形態をとります。
制度の運営には、送出機関(海外)、監理団体(日本)、受け入れ企業(日本)、そして技能実習生本人が関わります。監理団体は、受け入れ企業が実習計画通りに指導しているか、実習生の保護ができているかなどを監理する役割を担います。
この制度の目的は何ですか?
制度の公式な目的は、前述の通り「国際協力」です。具体的には、開発途上国等の若年層が、日本の優れた技能等を習得し、帰国後に母国の産業の発展に貢献することを支援することにあります。
「我が国が開発途上国等への技能、技術又は知識の移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う人づくりに協力することにより、国際社会への貢献に寄与することを目的とする。」(外国人技能実習機構より引用・要約)
この目的を達成するため、実習生はあらかじめ定められた「技能実習計画」に基づき、受け入れ企業で実務を通じて技能等を習得します。
誰が技能実習生になれますか?また、どのような活動をしますか?
技能実習生となるためには、いくつかの条件があります。主に、
- 18歳以上であること
- 帰国後に母国で日本で修得した技能等を要する業務に従事することが予定されていること
- 母国の送出機関を通じて選ばれていること
- 過去に技能実習を行った経験がないこと(※特定の条件を満たせば2回目の実習が可能な場合もありますが、原則は1回限りです)
- その他、健康状態や日本語能力に関する一定の基準を満たすこと
といった要件を満たす必要があります。
日本での活動は、認められた技能実習計画に沿って行われます。例えば、建設分野の実習生であれば、建設現場で具体的な作業を経験し、その過程で関連する技能や安全管理の知識を習得します。農作業の実習生であれば、農作物の栽培、収穫、管理といった一連の作業を行います。実習計画には、習得目標、実習内容、期間などが詳細に記載されています。
実習活動は、雇用契約に基づき、労働時間や休憩、休日などが日本の労働基準法に則って管理されます。
技能実習はどのような職種・分野で行われますか?実習期間はどれくらいですか?
技能実習は、法務省令で定められた特定の職種・作業に限定して行われます。これは、技能移転の効果が期待できる分野として選ばれているためです。
対象となる職種・作業は非常に多岐にわたり、2024年現在、約80職種150作業以上が指定されています。主な分野としては、
- 農業分野(耕種農業、畜産農業など)
- 漁業分野(漁船漁業、養殖業など)
- 建設分野(とび、大工、配管、鉄筋施工など多数)
- 食品製造分野(飲食料品製造業)
- 繊維・衣服分野
- 機械・金属分野
- その他(自動車整備、介護、ビルクリーニングなど)
があります。
実習期間は、段階的に延長することが可能で、最長で5年間です。
- 第1号技能実習(1年目): 入国後講習を受け、その後約1年間の実習を行います。この期間中に技能評価試験(初級)を受験し、合格する必要があります。
- 第2号技能実習(2~3年目): 第1号技能実習を修了し、技能評価試験(3級程度)に合格すると、さらに2年間、合計3年間実習を行うことができます。
- 第3号技能実習(4~5年目): 第2号技能実習を修了し、技能評価試験(2級程度)に合格するなど、一定の要件を満たすと、さらに2年間、合計5年間の実習を行うことができます。
このように、段階を踏んでより高度な技能習得を目指す仕組みになっています。
技能実習生はどこで生活し、給料はいくらくらいですか?
技能実習生の住居は、受け入れ企業が準備することが一般的です。多くの場合、企業の寮や借り上げのアパートなどが提供されます。実習生が安全かつ安心して生活できるよう、適切な設備や環境が整えられていることが求められます。
給与については、日本の労働基準法が適用されるため、日本人と同等以上の給与が支払われなければなりません。 これは制度の非常に重要な原則の一つです。最低賃金についても、実習先の地域の最低賃金以上の金額が支払われる必要があります。
しかし、給与から税金(所得税、住民税)、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険)、そして寮費や光熱費などが控除されます。特に来日当初は、これらの控除額や、母国への送金分などを考慮すると、手取り額が少なく感じる場合もあります。
手取り額についての注意点: 寮費や光熱費は、企業が実費または実費を勘案した妥当な額を徴収することが認められています。これが高すぎると、手取り額が不当に少なくなるという問題が指摘されることもあります。そのため、受け入れ側は適正な費用負担となるよう配慮する必要があります。
実習生はどのように日本に来て、どのようなサポートを受けられますか?
技能実習生として日本に来るまでには、いくつかのステップがあります。
- 候補者の選定: 母国の送出機関が、日本の受け入れ企業や監理団体と連携して、面接などを通じて候補者を選びます。
- 事前講習: 日本語や日本の生活習慣、ルールなどについて、母国で一定期間の事前講習を受けます。
- 在留資格申請: 日本での技能実習のための在留資格「技能実習」を申請します。
- 来日: 在留資格が許可されると、日本に入国します。
- 入国後講習: 日本の監理団体や受け入れ企業が行う、日本語や日本の法令、生活に関する入国後講習を受けます(通常1ヶ月程度)。
- 技能実習開始: 講習終了後、受け入れ企業に配属され、技能実習が開始されます。
日本でのサポート体制は、主に受け入れ企業と監理団体が担います。監理団体は、定期的に受け入れ企業や実習生を訪問し、実習の進捗状況、生活状況、労働条件などに問題がないかを確認し、必要な指導や支援を行います。また、実習生からの相談に応じる窓口としての役割も担います。
受け入れ企業は、技能実習計画に基づいた適切な実習指導はもちろん、住居の提供、生活上の助言、病気になった際のサポートなど、実習生が安心して日本で生活し、実習に専念できるよう様々な面で支援を行います。
技能実習制度と特定技能制度はどう違いますか?
技能実習制度と「特定技能制度」は、どちらも外国人が日本で働くための在留資格ですが、その目的や仕組みには大きな違いがあります。
主な違いの比較:
- 目的:
- 技能実習制度: 開発途上国への技能移転による国際貢献
- 特定技能制度: 中小・小規模事業者等における深刻な人手不足への対応
- 求められる技能レベル:
- 技能実習制度: 入国時は必ずしも高い技能は不要。日本で技能を「学ぶ」ことが主目的。
- 特定技能制度: 特定の分野において、即戦力として働くために必要な専門性・技能が求められる。技能試験等で証明が必要。
- 在留期間:
- 技能実習制度: 最長5年間
- 特定技能制度:
- 特定技能1号:最長5年間
- 特定技能2号:在留期間の上限なし、更新可能
- 家族の帯同:
- 技能実習制度: 原則不可(一部例外あり)
- 特定技能制度:
- 特定技能1号:原則不可
- 特定技能2号:要件を満たせば配偶者、子どもの帯同が可能
- 転職:
- 技能実習制度: 原則不可(実習計画に基づく企業でのみ実習)
- 特定技能制度: 同一分野内であれば転職可能
特定技能制度は、労働力不足の解消という側面に重きを置いており、一定の技能を持つ外国人に日本での就労機会を提供するものです。これに対し、技能実習制度はあくまで「技能移転」が目的であり、その過程として日本で働くという位置づけです。
技能実習終了後はどうなりますか?
原則として、技能実習期間が終了した実習生は、母国に帰国する必要があります。これが制度の建前である「技能移転」を実現する流れです。
しかし、一定の要件を満たす実習生は、日本に引き続き滞在して働くための選択肢もあります。最も一般的なのが、前述の特定技能1号への移行です。
- 特定技能1号への移行: 技能実習2号または3号を良好に修了した実習生は、試験が免除されるなど、比較的スムーズに特定技能1号の在留資格へ変更できる場合があります。これにより、同じ分野でさらに最長5年間、日本で働くことが可能になります。
- 他の在留資格への変更: 技能実習で得た経験や知識を活かし、学歴やその他の要件を満たせば、「技術・人文知識・国際業務」などの就労系在留資格や、「留学」などの在留資格に変更する可能性もゼロではありませんが、ハードルは高くなります。
- 再入国: 一度帰国した後、再び技能実習制度を利用して日本に来ることは、原則としてできません。ただし、特定の職種や条件を満たせば、第3号技能実習として再び日本に来る道が開かれている場合もあります。
多くの場合、実習期間の満了は帰国を意味しますが、技能評価試験の合格実績などによっては、特定技能として日本でのキャリアを継続する道も開かれています。
まとめ
技能実習制度は、「国際貢献」を目的とした、外国人材が日本の技能を習得するために来日する制度です。対象となる職種、期間、生活、給与、手続きなど、多くの側面が制度によって細かく定められています。
実習生は雇用契約に基づき日本の労働者と同様に扱われ、最低賃金以上の給与が保証される一方、生活費や社会保険料などが控除されます。監理団体や受け入れ企業は、実習計画の実施や実習生の生活サポートに責任を持ちます。
労働力不足解消を目的とする特定技能制度とは根本的な目的が異なり、制度の仕組みにも違いがあります。しかし、技能実習修了者が特定技能へ移行するパスは、多くの実習生にとって日本での滞在・就労を継続する現実的な選択肢となっています。
この制度には様々な側面があり、理解を深めるためには、単に「人手不足を補う制度」として見るのではなく、その公式な目的や、実習生一人ひとりの状況、そして受け入れ側の責任と役割を具体的に把握することが重要です。