【特別障害者】制度の具体的な内容、申請方法、受けられる支援

「特別障害者」という言葉は、日本の社会福祉制度において、特に重度の障害を持つ方を指すために用いられる区分です。
この区分は、単に障害者手帳を所持しているだけでなく、その障害の程度や状態が極めて重く、日常生活において常時特別の介護を必要とする、またはそれに準ずる状態にある場合に認定されます。
ここでは、「特別障害者」とは具体的にどのような状態を指すのか、なぜこのような制度が存在するのか、どのように認定を受けるのか、そして認定されるとどのような支援が受けられるのか、といった点について、制度の細部に焦点を当てて解説します。


特別障害者とは何か? – 定義と認定基準

特別障害者とは、国の社会福祉制度に基づき、精神又は身体に著しく重度の障害があり、日常生活において常時特別の介護を必要とする状態にある方として認定された方を指します。
これは、単に「重度の障害」というだけでなく、「常時特別の介護を必要とする」という点が重要な要素となります。
具体的には、以下のいずれかの状態にある場合が対象となり得ます。

  • 身体障害者手帳で1級または2級の所持者で、複数の重度障害が重複している方
  • 身体障害者手帳で1級または2級の所持者で、障害の程度が特に重く、上記と同程度の状態にある方
  • 知的障害で重度(療育手帳のA判定など)と判定され、かつ重度の身体障害が重複している方
  • 精神障害(統合失調症、精神病質、その他の精神疾患)で、日常生活能力が著しく低下しており、かつ重度の身体障害が重複している方
  • 上記に準ずる精神または身体の著しく重度の障害があり、日常生活において常時特別の介護を必要とする方

ここでいう「常時特別の介護」とは、食事、排泄、入浴、移動など、日常生活の基本的な動作を含む全般において、見守りや声かけだけでは不十分で、常時人的な援助が不可欠である状態を指します。
単に寝たきりであるというだけでなく、精神的な障害や知的障害を伴い、危険の回避能力が著しく困難である場合なども含まれ得ます。
認定にあたっては、医師の診断書の内容に基づき、個々の障害の状態が総合的に判断されます。

一般の障害者との違い

一般的に「障害者」という場合、障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳)の所持者を指しますが、「特別障害者」は、その中でも特に障害が重く、国の定める基準を満たした方の特別な区分です。
障害者手帳が障害の種類や程度を示すものであるのに対し、特別障害者の認定は、その重度さに加えて「常時特別の介護が必要」という状態を重視し、手当の支給を目的とした独自の制度として位置づけられています。
そのため、障害者手帳の等級が重度であっても、特別障害者として認定されるには、さらに厳しい基準を満たす必要があります。


なぜ「特別」なのか? – 制度の目的と背景

なぜ、一般の障害者とは別に「特別障害者」という区分を設け、特別な手当を支給する制度があるのでしょうか。その目的は、特に重度の障害を持つ方々が直面する、極めて困難な日常生活と、それに伴う介護者の負担を軽減するためにあります。

制度の主な目的:

  • 常時特別の介護が必要な状態にある障害者本人の、日常生活における困難さを緩和する。
  • 障害者を介護する家族等の、精神的・身体的・経済的な負担を軽減する。
  • 重度の障害があっても、可能な限り地域で安定した生活を送れるよう支援する。

重度の障害に加え、常時介護が必要な状態にあるということは、本人にとってはもちろんのこと、その介護を担う家族や支援者にとっても計り知れない負担となります。24時間体制に近い介護が必要となるケースも多く、家族が離職せざるを得ない、心身ともに疲弊してしまうといった問題が生じがちです。

特別障害者手当は、このような特別な状況にある家庭に対し、経済的な支援を行うことで、介護に必要な物品の購入費に充てたり、介護サービスを supplemental に利用したりするための資金として活用してもらい、少しでも負担を和らげることを目的としています。
この制度は、重度障害者の福祉を推進し、社会全体で支えていくという理念に基づいています。


どのように認定されるのか? – 申請から審査プロセス

特別障害者の認定を受けるためには、所定の手続きを経て、国の定める基準に合致するかどうかの審査を受ける必要があります。以下にその一般的な流れを説明します。

申請方法:どこに、何を提出する?

申請は、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で行います。
申請に必要な書類はいくつかありますが、特に重要なのは「認定診断書」です。

  1. 申請書の入手: 市区町村の窓口で特別障害者手当認定申請書を受け取ります。
  2. 診断書の取得: 特別障害者手当用の専用の診断書様式を医師に記入してもらいます。この診断書には、障害の種類、程度、日常生活能力の評価、介護の必要性など、詳細な情報が記載されます。かかりつけの医師に、特別障害者手当申請のための診断書が必要であることを伝え、制度の趣旨や必要な記載内容を理解してもらうことが重要です。
  3. その他の必要書類の準備:
    • 本人および扶養義務者の戸籍謄本または抄本(自治体による)
    • 本人および扶養義務者の住民票の写し(自治体による)
    • 所得に関する証明書(本人、配偶者、扶養義務者の前年の所得状況を証明するもの)
    • 振込先口座の通帳の写し
    • その他、障害の状況を証明する書類(例:身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳など)
    • 印鑑
    • マイナンバーに関する書類

    ※必要書類は自治体によって若干異なる場合があるため、事前に窓口で確認が必要です。

  4. 窓口への提出: 必要書類を全て揃え、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に提出します。

審査プロセス:どのように判断される?

申請書類が提出されると、市区町村で書類の確認が行われ、その後、都道府県(または政令指定都市)の担当部署に送付されます。
審査は、主に提出された認定診断書の内容に基づき、国の定める認定基準に照らして行われます。

  • 書面審査: 提出された診断書やその他の書類に基づいて、障害の重度さや常時介護の必要性が基準を満たしているかが詳細に検討されます。この際、診断書の記載内容が認定基準に沿っているかが厳しくチェックされます。
  • 追加調査: 診断書の内容だけでは判断が難しい場合や、より詳細な情報が必要な場合は、申請者本人やその家族、関係機関への聞き取り調査や、医師への照会が行われることがあります。場合によっては、自宅を訪問して生活状況を確認することもあります。
  • 審査会: 専門家(医師など)を含む審査会が開催され、個別のケースについて審議が行われることがあります。
  • 認定・却下の決定: 審査の結果、国の定める特別障害者手当の認定基準を満たしていると判断されれば「認定」となります。基準を満たさない場合は「却下」となります。
  • 結果通知: 認定または却下の決定は、申請者本人に書面(郵送)で通知されます。申請から結果通知までには、通常2ヶ月~3ヶ月程度の時間がかかります。

特別障害者の認定基準は厳しいため、重度の障害があっても必ずしも認定されるわけではありません。特に「常時特別の介護が必要」という状態の判断が難しく、診断書の内容がその状態を的確に反映しているかどうかが重要なポイントとなります。診断書作成時には、医師とよく相談し、本人の日常生活の具体的な困難さや介護の必要性について詳しく伝えることが望ましいです。


どのような支援が受けられるのか? – 手当の金額とその他の制度

特別障害者に認定されると、主に特別障害者手当という経済的な支援が受けられます。これに加え、税制上の優遇措置など、関連する様々な支援があります。

特別障害者手当(月額)

特別障害者手当は、認定された本人に対して支給される手当です。その金額は、法律によって定められており、物価スライド等により改定されることがあります。

特別障害者手当の支給額(令和5年4月時点):
月額 27,980円

※この金額は法定額であり、改定されることがあります。最新の正確な金額は厚生労働省や自治体の情報を確認してください。

この手当は、認定された翌月分から支給対象となります。支払いは年4回、具体的には2月、5月、8月、11月に、それぞれの前3ヶ月分がまとめて指定口座に振り込まれます。例えば、5月には2月~4月分がまとめて支給されます。

ただし、特別障害者手当には所得制限があります。申請者本人、配偶者、扶養義務者それぞれの前年の所得が一定額以上である場合は、手当が支給停止となります。この所得制限基準額も毎年度見直しが行われます。

その他の関連支援

特別障害者に認定されることで、直接特別障害者手当が支給されるだけでなく、他の制度においても優遇が受けられる場合があります。

  • 税制上の優遇:
    • 所得税・住民税の障害者控除: 特別障害者本人、または特別障害者である同一生計配偶者や扶養親族がいる場合、一般の障害者控除よりも手厚い控除額が適用されます。これは税負担を軽減する上で非常に大きなメリットとなります。
    • 相続税・贈与税の控除: 一定の要件を満たす場合、相続税や贈与税において特別障害者に対する控除が受けられる場合があります。
  • NHK放送受信料の免除: 世帯の中に特別障害者がおり、かつ世帯全員が住民税非課税の場合、NHKの放送受信料が全額免除となります。
  • 医療費助成: 多くの自治体では、重度心身障害者等を対象とした医療費助成制度を設けており、特別障害者もその対象に含まれることが一般的です。医療費の自己負担分が軽減されます。
  • 公共交通機関の割引: 身体障害者手帳や療育手帳等に基づき、旅客運賃の割引制度がありますが、特別障害者の認定は、その割引を受ける上での根拠となる障害者手帳の等級が重度であることを前提としているため、関連性が高いと言えます。
  • 福祉サービス: 重度の障害に対する訪問介護(居宅介護)、短期入所(ショートステイ)などの福祉サービスを利用する際に、サービス量の決定や利用料の減免において、特別障害者であるという状況が考慮されることがあります。

これらの関連支援は、特別障害者手当とは別に、各制度の要件を満たすことで受けられるものです。詳細は、各制度の担当窓口(税務署、自治体など)に確認が必要です。


対象者はどれくらいいるのか? – 支給状況

特別障害者手当を受給している方の数は、毎年厚生労働省が公表する福祉行政報告例などの統計データで確認することができます。
全国の受給者数は、制度が開始されて以降、高齢化や医学の進歩に伴う延命などにより、増加傾向にあります。

特別障害者手当の支給対象者数(概算):
直近の公表データに基づくと、全国で約28万人~29万人程度の方が特別障害者手当を受給しています。
(出典:厚生労働省「福祉行政報告例」などより)

※この数値は年度によって変動します。

日本の障害者人口全体から見ると、この数は非常に限定的であり、いかに「特別」な区分であるかがわかります。
これは、特別障害者として認定されるための基準、特に「常時特別の介護が必要」という状態のハードルが高いことを示しています。
手当の支給決定には、前述の所得制限も影響するため、認定基準を満たしていても所得制限により支給停止となっている方も含めると、該当する可能性のある方はさらに多くいると考えられます。


手当はどこで受け取るのか? – 支払い方法

特別障害者手当の支給は、申請時に指定した本人名義の金融機関口座への口座振込によって行われます。
現金での手渡しや、代理人の口座への振込は原則としてできません。

支給日は、年4回の支払月の10日(10日が土日祝日の場合は前営業日)に定められています。
例えば、5月10日には、2月分、3月分、4月分の手当がまとめて振り込まれます。
口座への入金をもって、手当の受け取りが完了となります。
通帳には「トクベツショウガイシヤテアテ」などの名称で記帳されます。

申請手続きは市区町村の窓口で行いますが、手当の支給事務自体は、都道府県や政令指定都市が行っている場合が多いです。しかし、申請者側は、申請先の市区町村窓口とのやり取りが主となります。


認定の継続と見直しは? – 更新手続き

特別障害者の認定は、一度受けると永続的に続くものとは限りません。障害の状態が変化する可能性も考慮し、定期的な状況確認や、有期認定の場合は更新手続きが必要となります。

有期認定と更新手続き

障害の種類や状態によっては、一時的な悪化や、将来的に状態が変化する可能性があると判断される場合、有期認定とされることがあります。
この場合、認定期間(例:2年、3年など)が定められ、その期間が満了する前に更新手続きが必要となります。
更新手続きでは、再度「特別障害者手当認定診断書」を医師に作成してもらい、市区町村の窓口に提出して、再度認定基準を満たしているかどうかの審査を受けます。この手続きを忘れると、期間満了をもって手当の支給が停止されるため注意が必要です。

永久認定と現況届

障害の状態が永続的で、将来にわたって改善の見込みがほとんどないと判断される場合は、永久認定とされることもあります。
永久認定の場合、原則として診断書の再提出による更新手続きは不要ですが、毎年一定の時期に現況届の提出が必要です。
現況届は、引き続き手当を受給する資格があるか(特に所得制限に該当しないか)を確認するための手続きです。市区町村から郵送されてくる書類に必要事項を記入し、提出します。

障害状態の変化

認定を受けている途中で、障害の状態が著しく軽減されたり、あるいはさらに重度になったりした場合は、速やかに市区町村の窓口に届け出る必要があります。
状態の軽減が認定基準を下回るほどであれば、認定が取り消され手当の支給が停止されます。逆に、状態が悪化した場合は、それに応じた支援の見直しなどが検討される可能性があります(ただし、特別障害者手当自体は最重度に対する手当なので、これ以上の等級はありませんが、他の福祉サービスに影響する場合が考えられます)。


特別障害者制度は、日本の福祉制度の中でも、特に支援が必要な方々を対象とした重要な制度です。
もしご自身やご家族が、この記事に記載されているような重度の障害の状態にあり、日常生活において常時特別の介護が必要な状況であるならば、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に相談し、特別障害者手当の申請を検討してみる価値は十分にあります。
制度の内容や申請手続きは複雑に感じられるかもしれませんが、窓口の担当職員が丁寧に説明や案内をしてくれます。


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