聴覚障害等級は、身体障害者手帳制度における聴覚機能の障害の程度を示す区分です。この等級は、個人の聴力レベルや社会生活への適応能力に基づいて決定され、様々な公的支援やサービスを受けるための重要な基準となります。ここでは、聴覚障害等級について、「何なのか」「なぜ必要なのか」「どこで認定されるのか」「どのような支援があるのか」「どのように申請するのか」といった具体的な疑問に焦点を当て、詳細に解説していきます。

聴覚障害等級とは何ですか?

聴覚障害等級とは、日本の身体障害者福祉法に基づき定められている、聴覚の障害の重さを表すための公的な区分です。この等級は、単に音がどれだけ聞こえているかだけでなく、言葉の聞き取り能力なども含めて総合的に判断されます。

その目的と役割

聴覚障害等級の主な目的は、聴覚に障害のある方が、その障害の程度に応じた適切な福祉サービスや支援を受けられるようにすることです。等級が認定されることで、身体障害者手帳が交付され、この手帳を提示することで、以下のような様々な支援制度にアクセスできるようになります。

  • 障害年金などの経済的支援
  • 補聴器などの補装具費の支給
  • 医療費の助成
  • 税金の控除
  • 公共交通機関の割引
  • 雇用支援
  • 情報・コミュニケーション支援

このように、等級は単なる区別ではなく、聴覚障害のある方が社会生活を送る上で生じる様々な困難を軽減し、自立や社会参加を促進するための「パスポート」のような役割を果たしています。

等級の種類と基準

聴覚障害における身体障害者手帳の等級は、重い方から順に2級3級4級6級が定められています。これらの等級は、主に以下の2つの聴力検査の結果に基づいて判定されます。

  1. 純音平均聴力レベル:様々な周波数の音を聞き取る最小の音量(聴力レベル)を測定し、その平均値(dB:デシベル)を算出します。両耳の聴力レベルが判定基準となります。
  2. 語音明瞭度:単語や短い文章を聞き取り、正確に復唱できる割合(%)を測定します。言葉の聞き取り能力が判定基準となります。

等級ごとの具体的な基準は以下のようになっています(これは一般的な基準であり、詳細な判定には複数の基準が組み合わされる場合があります)。

主な聴覚障害の等級と基準

  • 2級:

    • 両耳の平均聴力レベルが100dB以上のもの
    • または、両耳の平均聴力レベルが90dB以上であり、かつ両耳による50cm以上の距離での話声弁別率が0%のもの(語音明瞭度も考慮)
  • 3級:

    • 両耳の平均聴力レベルが90dB以上のもの
  • 4級:

    • 両耳の平均聴力レベルが80dB以上のもの
    • または、片耳の平均聴力レベルが90dB以上であり、かつ他耳の平均聴力レベルが50dB以上のもの
  • 6級:

    • 両耳の平均聴力レベルが70dB以上のもの
    • または、片耳の平均聴力レベルが80dB以上であり、かつ他耳の平均聴力レベルが50dB以上のもの

これらの基準に基づき、医師の診断と自治体の審査を経て等級が決定されます。聴力レベルだけでなく、語音明瞭度や年齢、その他の要因も総合的に考慮されることがあります。特に、小児の場合は判定基準が異なる場合や、今後の聴力変動の見込みなども考慮されることがあります。

なぜ聴覚障害等級が必要なのですか?

なぜ、わざわざ等級を付けて区分する必要があるのでしょうか。それは、聴覚障害の程度によって、日常生活や社会生活で直面する困難の質や量が大きく異なるため、画一的な支援では不十分だからです。

福祉サービスや支援の利用

等級が必要な最も大きな理由は、公的な福祉サービスや支援が、等級に応じて提供される仕組みになっているためです。例えば、重度であればあるほど、日常生活でのコミュニケーションや情報の取得が困難になり、より専門的で手厚い支援が必要になります。等級は、その必要な支援の種類やレベルを判断するための客観的な指標となります。障害年金の額、補聴器の種類や支給額の上限、受けられる医療費助成の範囲などが、等級によって定められています。等級がなければ、適切な支援を必要とする人に、必要な分だけ届けるという社会的な仕組みが成り立ちません。

社会生活における配慮

また、聴覚障害等級は、教育、雇用、交通など、社会生活の様々な場面で必要な配慮を求める際の根拠ともなります。例えば、職場での情報保障(筆談、手話通訳など)、公共交通機関での割引利用、災害時の情報伝達における配慮など、等級は障害の存在とその程度を社会に示すための公的な証明となります。これにより、個人の努力だけでは解決できない社会的な障壁に対して、制度的な支援や配慮が講じられるようになります。等級は、聴覚障害のある方が安心して社会参加するための基盤を提供していると言えます。

どこで聴覚障害等級の認定を受けられますか?

聴覚障害等級の認定を受けるための手続きは、特定の場所で行われます。

認定までの主な流れ

認定を受けるまでの一般的な流れは以下の通りです。

  1. お住まいの市町村の福祉担当窓口に相談する。
  2. 身体障害者手帳の申請に必要な書類を受け取る。(特に診断書・意見書の様式)
  3. 都道府県知事等が指定した医師(身体障害者福祉法第15条指定医)の診察を受け、聴力検査を行い、診断書・意見書を作成してもらう。
  4. 診断書・意見書を含む必要書類一式を、お住まいの市町村の福祉担当窓口に提出する。
  5. 提出された書類は、都道府県の審査機関(医師などで構成される判定医など)で審査される。
  6. 審査結果に基づき、都道府県知事が等級を決定し、市町村を通じて申請者に通知され、身体障害者手帳が交付される。

この流れの中で、聴力検査や診断書作成は、指定医のいる医療機関(耳鼻咽喉科など)で行われます。申請書類の提出と手帳の受け取りは、お住まいの市町村の窓口が中心となります。

診断書の取得

最も重要な書類の一つである診断書・意見書は、都道府県知事等により「身体障害者福祉法第15条指定医」として指定された医師に作成してもらう必要があります。全ての耳鼻咽喉科医が指定医であるとは限らないため、事前に市町村の福祉担当窓口や受診を希望する医療機関に確認することが大切です。診断書には、純音聴力検査と語音明瞭度検査の結果が詳細に記載され、医師による総合的な意見が付されます。この診断書の内容が、等級判定の基礎となります。

申請窓口

申請書類の提出先は、原則として申請者の住民票があるお住まいの市町村の福祉担当窓口(障害福祉課など)です。ここで申請書の書き方の相談や、必要な書類の確認なども行うことができます。

聴覚障害等級による支援や給付はどのくらい受けられますか?

聴覚障害等級が認定されることで受けられる支援や給付は多岐にわたります。その内容は等級によって異なります。具体的な金額やサービス内容は、国の制度に加え、居住する自治体(都道府県、市町村)独自のサービスによっても異なる場合があります。

等級ごとの具体的な支援例

以下に、等級に応じて受けられる可能性のある主な支援や給付の例を挙げます。

  • 障害年金

    • 2級:障害基礎年金、または障害厚生年金(加入状況による)の対象となります。日常生活に著しい支障があるレベルと見なされます。
    • 3級:主に障害厚生年金の対象となります。一定の労働が制限される、または労働に著しい制限を受けるレベルと見なされます。聴覚単独では3級が障害厚生年金の最低等級となることが多いです。
    • 4級、6級:聴覚単独では障害年金の対象とならない場合がほとんどですが、他の障害と重複している場合などは対象となる可能性があります。
    • ※年金額は加入していた年金制度や保険料納付期間、扶養親族の有無などによって大きく変動します。
  • 補装具費の支給

    • 聴覚障害の場合、主に補聴器の購入や修理費の支給が受けられます。
    • 支給額には上限があり、原則として費用の1割が自己負担となりますが、所得によっては自己負担が減免される制度もあります。
    • 支給対象となる補聴器の種類や耐用年数なども定められています。
    • 等級によって支給対象となる補聴器の種類や、個数(両耳分か片耳分か)に違いがある場合があります。
  • 医療費助成

    • 特定の医療費(例:人工内耳の埋め込み手術やその後の調整など、関連する治療)について助成が受けられる場合があります。
    • 自治体によっては、手帳保持者に対する医療費の自己負担分を助成する制度を設けていることがあります。
  • 税金の控除・減免

    • 所得税や住民税において、障害者控除が適用されます。控除額は等級によって異なります(特別障害者控除など)。
    • 自動車税、自動車取得税の減免が受けられる場合があります(条件あり)。
    • 相続税の控除がある場合があります。
  • 公共交通機関の割引

    • 鉄道、バス、飛行機、船舶などの運賃割引が受けられます。
    • 割引率は交通事業者によって異なりますが、本人と介助者(原則1名)が割引の対象となることが多いです。
    • 割引を受けるには、身体障害者手帳の提示が必要です。
    • 割引対象となる等級や利用条件(単独利用可否など)は定められています。聴覚障害単独の場合、本人単独での割引が認められない交通機関もあります。
  • 日常生活用具の給付・貸与

    • 聴覚障害者向けの日常生活用具(例:屋内信号装置、文字情報機器、振動式目覚まし時計など)の購入・貸与費用が支給される場合があります。
    • 対象となる用具や支給額は、等級や自治体の制度によって異なります。
  • 雇用支援

    • 障害者雇用促進法に基づき、企業には一定割合の障害者を雇用する義務があります。
    • ハローワークなどで障害者向けの専門的な就職支援やセミナーが受けられます。
    • 障害者として雇用される場合、職場での必要な配慮(情報保障、コミュニケーション方法など)を会社に求めることができます。

これらの支援は、手帳が交付された日から利用できるものがほとんどです。ただし、申請が必要なもの(補装具費支給など)や、所得制限があるものもあります。具体的な内容や手続きについては、お住まいの市町村の障害福祉担当窓口で確認することが最も確実です。

聴覚障害等級の申請はどのように行いますか?

聴覚障害等級の申請手続きは、前述の通り市町村窓口を通じて行われますが、具体的なステップと必要な要素について解説します。

申請に必要な書類

身体障害者手帳(聴覚障害)の申請に必要な主な書類は以下の通りです。

  • 身体障害者手帳交付申請書:市町村の窓口で入手します。氏名、住所、生年月日、マイナンバーなどを記入します。
  • 身体障害者診断書・意見書(聴覚障害用):都道府県知事等が指定した医師(第15条指定医)に作成してもらいます。これが等級判定の最も重要な根拠となります。指定の様式があります。
  • 本人の写真:原則として縦4cm×横3cmのサイズで、脱帽して上半身を写したもの。概ね1年以内に撮影されたものが必要です。
  • 印鑑:申請書に押印が必要な場合があります。
  • マイナンバー(個人番号)が確認できる書類:通知カードや個人番号カードなど。
  • 申請者の身元が確認できる書類:運転免許証、健康保険証など。

これらの書類に加え、状況に応じて他の書類の提出を求められることもあります。詳細は市町村の窓口で確認してください。

診断・検査の方法

診断書を作成してもらうためには、指定医のいる医療機関で聴力検査を受ける必要があります。主な検査は以下の通りです。

  • 純音聴力検査:オージオメーターという機器を使用し、様々な周波数(低い音から高い音まで)において、どのくらいの音量から音が聞こえるか(聴力閾値)を測定します。この結果から、各周波数の聴力レベルを記録し、平均聴力レベルを算出します。ヘッドホンや骨伝導を利用して行われます。
  • 語音明瞭度検査:録音された単語や文章を聞いてもらい、それを正確に聞き取れるかどうかの割合を測定します。この検査は、言葉の聞き取り能力、すなわちコミュニケーション能力を見る上で非常に重要です。聴力レベルが高くても、語音明瞭度が低い場合(音が歪んで聞こえるなど)は、より重い等級になることがあります。
  • その他:必要に応じて、ティンパノメトリー(鼓膜や中耳の状態を調べる)、耳音響放射(OAE)、聴性脳幹反応(ABR)などの客観的聴力検査が行われることもあります。特に乳幼児や知的障害等により正確な主観的検査が難しい場合に行われます。

これらの検査結果を医師が総合的に判断し、診断書を作成します。正確な診断のためには、体調の良い時に検査を受けることや、使用している補聴器を装用しない状態(裸耳)での検査が基本となります。

認定までの審査プロセス

市町村の窓口に申請書類が提出されると、書類は都道府県に送付され、専門医などから構成される審査会や判定医によって内容が審査されます。診断書の内容が基準に照らして適正か、障害の状態が等級基準に該当するかなどが検討されます。審査には数週間から1ヶ月程度かかるのが一般的ですが、状況によってはそれ以上かかる場合もあります。審査の結果、等級が決定され、身体障害者手帳が交付されることになります。残念ながら非該当となる場合もあります。

聴力の変化があった場合、等級はどうなりますか?

聴覚障害は、病状の進行や治療、加齢などによって聴力レベルが変動することがあります。このような場合、一度認定された等級を見直す制度があります。

再認定制度について

身体障害者手帳には、障害の程度が将来的に変化する可能性があると見込まれる場合、「再認定」の時期が指定されていることがあります。例えば、病状が安定していない場合や、小児の場合などに、数年後の特定の日までに再度診断を受けて申請するよう記載されます。指定された時期になったら、再度指定医の診察を受け、診断書を提出して再認定の申請を行う必要があります。これを怠ると、手帳が失効してしまう場合があるので注意が必要です。

等級変更の申請

再認定の指定がない場合でも、明らかに聴力が変化し、現在の等級が実際の障害の状態と合わなくなったと感じる場合は、いつでも等級変更の申請を行うことができます。例えば、聴力が悪化してより重い等級に該当するようになった場合や、人工内耳装用などによって聴力が改善し、より軽い等級になった(あるいは非該当になった)場合などです。申請方法は新規申請とほぼ同じ流れで、医師の診断書が必要となります。等級が変更されると、手帳が新しい等級のものに差し替えられます。

聴力の変化を感じた場合は、まずはかかりつけの耳鼻咽喉科医や市町村の福祉担当窓口に相談してみましょう。

聴覚障害等級は、聴覚に障害のある方が、障害の程度に応じた適切な支援を受けるための非常に重要な公的制度です。等級の基準は複雑に感じるかもしれませんが、これは一人ひとりの聞こえの状態をできるだけ正確に評価し、必要な支援につなげるために細かく定められています。ご自身の聴力について気になることがある場合や、すでに聴覚障害を指摘されている場合は、お住まいの市町村の障害福祉担当窓口や、身体障害者福祉法第15条指定医のいる医療機関に相談してみることをお勧めします。適切な手続きを経て等級認定を受けることで、利用できる様々な公的支援を知り、活用することが、より豊かな生活を送るための一助となるでしょう。

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