日本では、障害のある方が生活上のさまざまな支援やサービスを受けるために、「障害者等級」という区分が用いられています。これは、個々の障害の状態や生活への影響度に応じて、支援の内容や程度を適切に判断するための基準です。障害者等級は、主に「障害者手帳」と紐づいており、手帳の種類によって対象となる障害や等級の分け方が異なります。

この等級制度や障害者手帳について、具体的にどのようなものなのか、なぜ必要なのか、どうすれば取得できるのか、そして取得後にどのように活用できるのかといった、皆様がお持ちになるであろう様々な疑問点について、詳細にご説明します。

障害者等級とは何か?(手帳の種類と等級)

障害者等級は、日本の福祉制度において、障害のある方の状態を客観的に評価し、必要な支援を判断するための基準です。この等級が記載されているのが「障害者手帳」です。障害者手帳には、以下の3種類があり、それぞれ対象となる障害と等級のシステムが異なります。

身体障害者手帳

身体に永続する障害がある方が対象です。視覚、聴覚、平衡機能、音声・言語機能、そしゃく機能、肢体不自由、心臓、腎臓、呼吸器、ぼうこう・直腸、小腸、免疫、肝臓の機能の障害などが含まれます。

等級は1級から6級まであり、1級が最も重度な状態、6級が最も軽度な状態を示します。複数の障害がある場合は、それぞれの等級を勘案して総合的に判断されることもあります。

療育手帳

知的障害のある方が対象です。この手帳は法律で定められたものではなく、各都道府県や政令指定都市が独自に定めているため、名称や等級の区分は地域によって異なります。

多くの地域では、重度(A)とそれ以外(中度・軽度)(B)の区分が用いられます。さらに細かくA1(最重度)、A2(重度)、B1(中度)、B2(軽度)などと区分される場合もあります。判定は、知的機能と日常生活能力の程度に基づいて行われます。

精神障害者保健福祉手帳

精神疾患を有する方(てんかん、発達障害、高次脳機能障害を含む)のうち、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方が対象です。

等級は1級から3級まであり、1級が最も重度、3級が最も軽度と判定されます。これは、精神疾患の状態と、それによってどの程度、日常生活や社会生活(例:仕事、対人関係)に支障が出ているかを総合的に評価して決定されます。

なぜ障害者等級や手帳が必要なのか?(支援の目的と内容)

障害者等級やそれに紐づく障害者手帳は、単なる証明書ではなく、障害のある方が社会で自立し、より豊かな生活を送るための様々な支援やサービスを受けるために不可欠なものです。なぜ等級分けが必要かというと、障害の種類や重症度によって、必要とされる支援の内容やレベルが大きく異なるからです。

等級によって受けられる主な支援には、以下のようなものがあります(具体的な内容は、等級、お住まいの地域、所得などにより異なります)。

  • 医療費の助成:医療保険の自己負担分の一部または全部が助成される場合があります。特に重度の等級で手厚くなる傾向があります。
  • 税金の控除・減免:所得税、住民税、自動車税、相続税などで障害者控除や減免措置が受けられます。等級に応じて控除額が異なることがあります。
  • 公共交通機関の割引:JR、私鉄、バス、タクシー、航空運賃などで運賃の割引が適用されます。身体障害者手帳、療育手帳で適用され、等級や介護者の有無によって割引率や条件が変わります。精神障害者保健福祉手帳でも割引が受けられる場合がありますが、事業者によって対応が異なります。
  • 公共施設等の利用料割引:美術館、博物館、公園、プールなどの入場料や利用料が割引または無料になる場合があります。
  • 福祉サービスの利用:居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護、短期入所(ショートステイ)、日中一時支援、就労移行支援、就労継続支援などの障害福祉サービスを利用するための証明となります。サービスの利用決定には、障害支援区分(別の尺度)も関係しますが、手帳の等級は重要な要素の一つです。
  • 各種手当の受給:特別障害者手当や障害児福祉手当など、特定の条件(多くは重度の等級)を満たす場合に支給される手当があります。
  • 雇用に関する支援:障害者雇用枠での就職や、事業主に対する助成金の対象となるなど、働く上での支援につながります。

このように、等級に応じた多様な支援があることで、個々のニーズに合ったサービスが提供され、生活の負担軽減や社会参加の促進が図られています。

どこで手帳の申請やサービス利用をするのか?

障害者手帳の申請や、手帳を活用したサービスの利用手続きは、主に以下の場所で行います。

申請窓口

お住まいの市区町村の障害福祉担当課(または福祉事務所)が基本的な申請窓口となります。ここに必要書類を提出し、手続きを進めます。

手帳の利用場面

手帳を取得した後は、以下のような場面で手帳を提示したり、番号を伝えたりしてサービスを利用します。

  • 病院や薬局(医療費助成の申請や確認)
  • 駅の窓口やバス会社(運賃割引)
  • 税務署や市区町村役場(税金関連手続き)
  • 福祉サービス事業所(サービスの利用契約時)
  • 美術館、博物館、レジャー施設などの窓口(入場料割引)
  • ハローワークや障害者就業・生活支援センター(就労支援)

等級はどのように判定されるのか?(申請プロセス)

障害者手帳を取得し、等級を判定してもらうためには、定められた申請プロセスを経る必要があります。このプロセスは、障害の種類によって若干異なりますが、一般的な流れは以下のようになります。

申請の一般的な流れ

  1. 相談
    まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当課に相談することをお勧めします。手帳制度の概要や申請に必要な書類について説明を受けられます。ご自身の障害が対象となるか、どのような手続きが必要か確認できます。
  2. 医師の診断書等の取得
    手帳の種類ごとに定められた様式の医師の診断書が必要になります。身体障害者手帳の場合は、指定医(身体障害者福祉法第15条指定医)の診断書が必須です。精神障害者保健福祉手帳の場合は、精神科医の診断書が必要です(初診日から6ヶ月以上経過していることなどが条件)。療育手帳の場合は、児童相談所(18歳未満)または知的障害者更生相談所(18歳以上)での判定が必要ですが、医師の診断書や意見書が必要となる場合もあります。

    診断書には、障害の部位や種類、状態、機能の程度、日常生活への支障の程度などが詳しく記載されます。
  3. 申請書類の準備
    以下の書類を準備します。

    • 申請書(市区町村の窓口で入手)
    • 医師の診断書(または判定書)
    • 本人の顔写真(規定サイズ)
    • マイナンバー(個人番号)を確認できる書類
    • 本人確認書類(運転免許証、健康保険証など)
    • その他、必要に応じて同意書など
  4. 申請書提出
    準備した書類一式を、お住まいの市区町村の障害福祉担当課窓口に提出します。郵送での受付を行っている場合もあります。
  5. 審査・判定
    提出された書類に基づき、都道府県または政令指定都市の審査機関(更生相談所、精神保健福祉センターなど)で障害の状態が審査され、等級が判定されます。この際、診断書の内容や、必要に応じて追加の情報が検討されます。療育手帳の場合は、児童相談所や知的障害者更生相談所での専門職員による判定面談が行われます。
  6. 手帳交付
    審査・判定の結果、基準を満たしていると認められれば、障害者手帳が交付されます。申請から交付までは、通常1ヶ月~3ヶ月程度かかります(自治体や時期によって変動します)。不認定となった場合は、その旨通知されます。

等級判定の基準

等級判定は、単に特定の病名や診断名があるかだけでなく、その障害によって日常生活や社会生活にどの程度の制約が生じているかが最も重視されます。

例えば、精神障害者保健福祉手帳の等級判定では、精神疾患の状態(病状の活動性や程度)だけでなく、能力障害の状態(「日常生活能力の判定」や「精神障害者用の障害等級判定ガイドライン」に沿って評価される、食事、清潔保持、金銭管理、対人関係、危機対応、社会活動への参加などの能力)が総合的に評価されます。

身体障害者手帳でも、視力、聴力、関節の可動域、内部機能の検査結果など、具体的な数値や医学的所見に基づき、等級判定基準に照らし合わせて決定されます。

等級の再判定や変更について

一度取得した障害者手帳の等級は、永続的なものとは限りません。障害の状態は変化する可能性があるため、再判定が必要となる場合があります。

再判定の必要性

精神障害者保健福祉手帳には有効期限(通常2年)があり、更新には原則として再判定が必要です。また、身体障害者手帳でも、将来的に障害の状態が変化する可能性があると判断された場合、手帳に再認定の時期が記載され、その時期に再度診断書を提出して等級の確認や再判定を受ける必要があります。

状態が変化した場合の手続き

手帳交付後に、障害の状態が以前より重くなった場合や、反対に軽くなった場合は、本人の申請により等級の変更や返還の手続きを行うことができます。状態が重くなった場合は、より重い等級に変更されることで、受けられる支援が拡充される可能性があります。この場合の申請手続きは、新規申請と同様に医師の診断書が必要となります。

紛失・破損の場合

手帳を紛失したり、汚損・破損したりした場合は、再交付の申請を市区町村の窓口で行うことができます。

障害者等級および障害者手帳制度は、障害のある方が個々のニーズに合った適切な支援を受け、地域社会で安心して暮らしていくために非常に重要な役割を果たしています。制度の詳細や申請手続きについては、まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当課にご相談ください。

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